HINTS課題解決のヒント
「競輪選手」という職業を選択肢に――漫画IPを用いたSNSターゲティング施策

競輪・オートレースの振興を担う公益財団法人JKA。全国の競輪場やオートレース場の競技運営に加え、日本競輪選手養成所を運営し、競輪選手の育成にも取り組んでいる。近年ではこの日本競輪選手養成所への受験者数減少という課題に直面し、Web広告を活用して、競輪選手の魅力発信や受験者数増加につなげる施策に着手している。
そこで、公益財団法人JKA 伊豆事業部 庶務課 係長の 加藤 慎也 氏に本プロモーションの背景や具体的な施策の中身について話を聞いた。

競輪選手という職業を、もっと多くの人へ届けたい
――まず、JKAの役割について教えてください。
JKAは競輪とオートレースの振興を担う公益財団法人です。競輪・オートレース事業の競技運営だけでなく、競輪選手の育成、さらに収益を活用した補助事業など幅広い事業を行っています。
私が所属する伊豆事業部では、日本競輪選手養成所の運営に携わっており、全国から競輪選手を目指す候補生を募集し、養成するという役割を担っています。
――今回一連のWeb広告施策を実施した背景には、どのような課題があったのでしょうか。
一番大きな課題は、競輪選手を目指す受験者数が減少傾向にあったことです。そもそもの少子化や、部活動人口の減少など様々な要因がありますが、このまま受け身の広報だけでは状況は改善しないなという危機感がありました。受験者数が減り、応募倍率が下がれば競技全体のレベルにも影響します。そこで、「競輪選手」という職業そのものをもっと多くの方に知っていただく必要があると考え、本格的なWeb広告へ取り組むことを決めました。それまで実施していた広報は競輪そのもののブランディングが中心でしたが、リクルーティング目的でしっかり予算を投じたWeb広告は初めての取り組みでした。
――Web広告という選択に至った理由は何だったのでしょうか。
2023年頃から、ターゲット層へのアンケート調査を実施してきました。そこでは、情報収集の手段として多く挙げられたのがSNSやインターネットで、特に若い世代ほどWebを中心に情報を得ていることが分かりました。これまで競輪について届けられていなかった層へきっちりアプローチするためには、しっかりとターゲティングされたWeb広告が最も効果的だと判断しました。

課題の本質的理解と視点の提案が採用の決め手
――数ある提案の中で、読売新聞社を選んだ理由を教えてください。
一番印象に残っているのは、提案書から伝わる熱量でした。提案書のボリュームも際立っていましたし、資料から「ここまで考えてくださっているんだ」ということが伝わってきました。単に媒体の説明をするのではなく、私たちが抱えている課題を理解したうえで、「どうすれば競輪選手という職業を知ってもらえるか」という視点で提案してくださったことが大きかったですね。
競輪そのものではなく、「競輪選手」という職業をどう認知してもらうかという私たちの本質的な課題まで踏み込んで提案してくださったのが読売新聞社でした。その視点を持っていただけたことが、最終的な決め手になりました。

――具体的には、どのような提案が印象的だったのでしょうか。
とりわけ印象的だったのが既存IP(知的財産)を活用したタイアップ施策です。このアイデアを提案してくださったのは読売新聞社だけでした。週刊少年チャンピオンで連載中の競輪漫画『MOGAKU』とコラボレーションしたご提案をいただき、「これなら競輪を知らない人にも自然と興味を持ってもらえるのではないか」と感じました。
漫画には競輪選手の葛藤や成長が描かれており、競輪という競技だけでなく、「競輪選手という生き方」まで伝えられるコンテンツになっています。
また、制作面でも大きなメリットがありました。漫画という既存コンテンツを活用できたことで、広告クリエイティブに使える素材が豊富にあり、新たな素材を一から制作する負担も抑えられました。
Google広告やYahoo!広告、SNS広告、YouTubeの縦型動画など、さまざまな媒体へ展開しやすかった点も大きな魅力でした。

――実際に『MOGAKU』の反響はいかがでしたか。
受験者アンケートでも、『MOGAKU』を読んだという声がありました。現役選手の中にも読者がいますし、「競輪選手になりたい」という気持ちを後押しするコンテンツとして、一定の役割を果たしてくれたと感じています。
競輪という競技に興味を持つきっかけだけでなく、「自分も挑戦してみたい」と思えるストーリーがあったことが、大きな価値だったのではないでしょうか。
Web広告だから実現できた、スピーディーな改善サイクル
――実際にWeb広告を運用してみて、どのような効果を感じましたか。
一番大きかったのは、PDCAを素早く回せたことです。月2回の定例ミーティングを実施し、その時々の広告結果を見ながら、「次はこう変えてみましょう」と改善を重ねていきました。テレビCMのように、一度制作したら簡単には変更できない媒体とは違い、ターゲットの反応を見ながら柔軟にクリエイティブを変更できるのは、Web広告ならではのメリットだなと感じました。
動画広告も複数パターンを用意し、「どの動画が伸びるのか」「どの表現なら興味を持ってもらえるのか」を試験的に運用できました。伸びるもの、伸びないものが数字ではっきり分かるため、その結果を次の施策へすぐ反映できたことは非常に大きかったですね。

――実際に成果が出たクリエイティブには特徴がありますか。
一番分かりやすかったのは、「賞金」や「稼げる」といった金額をイメージできるワーディングの訴求です。やはり、競輪選手という職業に興味を持ってもらうための入口としてはお金に関するキーワードは反応が良かったです。
また、広告表現では季節性も意識しました。例えば、冬季にはオリンピックをきっかけにウィンタースポーツへの関心が高まります。直接オリンピックのイメージを使えるわけではありませんが、その時流に合わせてウィンタースポーツ経験者へ向けた訴求を行うなど、タイミングに応じて柔軟にクリエイティブを変更しました。こうした時機折々のスピード感ある運用も、読売新聞社から積極的に提案いただいた部分です。

「競輪選手」という選択肢を人生の節目に届けたい
――広告を通じて、どのような人へ競輪選手という職業を届けたいと考えていますか。
私たちが届けたいのは、自転車競技経験者だけではありません。野球やサッカー、陸上競技など、他のスポーツに全力で取り組んできた方々です。
プロを目指して努力してきたけれど一区切りを迎えた方や、「次の人生をどうしよう」と考えている方へ、「競輪選手」という選択肢があることを知ってほしいと思っています。

学校向けの説明会でも、「今やっている競技を途中で辞めて競輪へ来てください」とは伝えていません。まずは今取り組んでいる競技に全力を尽くしてください。その上で、次の進路を考えるタイミングで競輪という道を思い出してもらえれば十分だと考えています。その点では広告も同じです。「今すぐ受験してください」ではなく、「そういえば競輪選手という仕事があったな」と将来の選択肢の一つとして記憶に残ることを目指しています。
実際、日本競輪選手養成所は17歳以上(※)であれば受験でき、年齢の上限もありません。20代前半から中盤の受験者が多いものの、30代で養成所へ入り競輪選手になった方もいます。
(※)入所年度の4月1日時点
さらに、元軽音楽部員が競輪を始め、その後オリンピックへ出場した例もあるなど、自転車競技未経験から活躍したケースも決して珍しくありません。また、自転車競技未経験者でも挑戦できるよう、各地の競輪場では自転車の乗り方やバンク走行を学べる環境も整っています。しかし、こうした入口自体がまだ十分に知られていません。
だからこそ、競輪選手への第一歩となる環境があることも含めて発信していきたいと考えています。「才能がある人だけの世界」ではなく、「挑戦できる入口があること」をもっと広く知っていただきたいですね。
漫画だからこそ伝えられる、競輪選手の物語
――今回の施策では『MOGAKU』とのコラボレーションも大きな特徴でした。
実際の競輪の写真を使った広告と比較してみると、漫画の方が圧倒的に目を引きました。SNSや動画広告では最初の数秒で見てもらえるかどうかが決まると言われていますが、その点でも漫画には強いインパクトがありました。
また、『MOGAKU』にはさまざまなキャラクターが登場します。広告を見た人が「自分もこのキャラクターに近いかもしれない」「自分も挑戦できるかもしれない」と重ね合わせられる点も、大きな魅力だったと思います。 競輪は実際のレース映像だけでは選手の表情や感情までは伝わりにくい競技です。その点、漫画は競輪選手の苦悩や努力、勝負に懸ける想いまで描ける。さらに、『MOGAKU』ならではの熱血で泥臭い作風も競輪の世界観と非常に相性が良く、広告としても自然と目を引くコンテンツになっていると感じています。

――最後に、今後読売新聞社へ期待していることを教えてください。
競輪選手という職業も、日本競輪選手養成所という環境も、まだまだ認知度は高くありません。だからこそ、昨年度から継続して担当いただいている読売新聞社さんには、養成所を実際に見て感じたことも踏まえながら、新しい提案をどんどんいただきたいと思っています。
2027年1月頃には新施設の完成も予定しており、そのプロモーションも大きなテーマになります。これまで届いていなかった層へ魅力を発信し、施設の価値も含めて広く知っていただきたいですね。
また、今年度はランディングページ(LP)の実装も予定しています。広告からサイトへ来た方の離脱を減らし、『MOGAKU』というIPコンテンツの魅力を最大限に活かしたページづくりにも期待しています。
さらに今年度はターゲットも明確に整理しました。「競輪を知らない初見層」「他競技からの転向希望者」「セカンドキャリアを考える人」の3つです。それぞれに合わせたメッセージを届けながら、広告だけで終わらず、「競輪選手という職業が人生の選択肢の一つになる」状態を目指していきたいと考えています。
読売新聞社には昨年度の取り組みで感じた提案力や熱量をさらに発展させ、新たなアイデアやコンテンツを掛け合わせながら、競輪という世界をより多くの方へ届けていただければと思います。
