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国内外の「魅力の種」を発信するインターナショナルメディアへ 阿部はるひ編集長が語る「marie claire」の付加価値
1937年にフランス・パリで創刊され、1982年にフランス以外では初めて、日本版が発行された雑誌「marie claire」。現在は読売新聞に折り込まれる形で、日本のハイエンドなファッション&カルチャー誌として最大規模の月30万部を発行している。デジタル版の「marie claire digital」を始め、BS日テレで世界的なブランドなどを特集した「marie claire TV」やSNS展開など、その取り組みは多岐にわたっている。2026年4月から「marie claire」と「marie claire digital」の新編集長に就任した阿部はるひ氏に今後の展望を聞いた。

再認識したmarie claireの歴史とメッセージの重み
――4月に紙とデジタルの両方の編集長に就任されました。まず手掛けられたことは何でしたか。
来年2027年は、パリでの創刊から90年、日本での発行開始から45年と「ダブルの周年」となる記念の年になります。歴史ある「marie claire」は、媒体名自体は広く認知されていると思います。ただ、他にもインターナショナルなメディアはたくさんあるなかで、それらと何が違うのか、marie claireはどういうメディアなのか、自分自身でも改めてクリアにするために、読者アンケートも実施して媒体資料を作り直しました。
第一に、ターゲットの再確認は大きな要素でした。書店やオンラインで購入するのではなく、新聞に折り込まれる形の雑誌であること。また、webやSNSをご覧になる方もたくさんいる。読者データを調べてみたところ、30代と40代の女性がボリュームゾーンで、ファッションだけではなくカルチャーや教養に興味が高いことが分かった。それならば大きくずらす必要はない、その世代の感性豊かな女性たちに向けて発信しようと決めました。
多くのラグジュアリー系メディアは、似たような年代や層を対象とすることが多いと思うのですが、marie claireの特徴は何かと考えてみると、いわゆるマズローの欲求階層でいうところの承認欲求のステータスはすでに満たされていて、自分をより成長させたいという自己実現のステータスにいる層だということ。そのような読者に響くのは、単なるファッションやトレンドだけでなく、その背景にあるストーリーや本質的な価値です。marie claire japonは創刊時より、そういった物語を丁寧にお届けしていて、とても読み応えのある雑誌でした。パリで創刊した際に掲げたメッセージも、“ファッションを一過性の流行ではなく、文化の領域へ”というものです。これからも、その哲学は大切にしていきます。

美的感性を高め、自分らしさを見つけるきっかけに
――完成した媒体資料では、「『美』と『知』のキュレーションメディアへ!」と題した巻頭言で、「自分軸をもつために必要なのは『美しさ』を見出す知性」とおっしゃっています。その思いや考えを聞かせてください。
スマートフォンでちょっと調べるだけで、たくさんの情報が入ってくる時代です。しかもアルゴリズムで特定の興味にターゲティングがなされ、受け取る情報のバランスが悪くなる可能性があります。真偽不明な動画や画像、情報もあふれていて、ただ受け取るだけの自分でいると、意思決定に少なからず影響が出てしまうと思います。私たちは日常の中で絶えず選択を重ねていますが、一つの選択がブレるとどんどん意図しない方向へ流され、「本当は自分としてはこうしたかったのに」と疲弊してしまうことも少なくありません。だからこそ、常に自分の中に揺るぎない軸を持つことが大切です。その軸とは何かというと、「美的感性」だと思うのです。人は何かを「美しい」と感じるとき、前向きで未来志向になれます。そこにマイナスな感情は生まれませんし、自分自身も深く満たされます。この「美しい」と思う豊かな感情は、人生の重要な局面で選択を行う際の道標になるのではないでしょうか。そしてそれは、教養や知的好奇心によって育まれる部分も大きいと考えています。
私たちメディアに携わる人間の原点は、そのメディア自身が「美しく、価値がある」と信じるものを厳選して「これ、すごくいいよ」「大切だから知って欲しい」とお伝えすることです。皆さんの日々の生活にインスピレーションを与えられるような、その種をお示しするのが我々の役割だと考えていて、そこで初めて知ったり、面白いと思ったことがあれば、調べたり実際に体験してみるきっかけになります。そうすることで“視点”、つまり美しさを捉えるセンサーが増え、「自分軸」が育まれていきます。そのお手伝いがしたい、そんな思いで書きました。

思いの強いファンとゆるやかなサポーターの二層構造
――編集長はこれまで、「25ans(ヴァンサンカン)」を始めとしたラグジュアリーな雑誌の編集者、編集長という立場にありました。これまでと、marie claireとで違いを感じていらっしゃいますか。
違う部分もありますね。媒体によって「ラグジュアリー」の切り取り方が異なるということだと思います。marie claireの使命の一つとして、ラグジュアリーとは何なのかを翻訳していくことがあります。一口にラグジュアリーと言っても、いろんな意味や捉え方があるので、同じものにはなりません。メディアの独自性と信頼性が大切です。marie claire独自の視点でラグジュアリーをお伝えしていきたいと思っています。
――marie claireのブランド力を図る指標として、webのページビューやSNSでのエンゲージ、le salon de marie claireの会員数などあります。現状で意識していらっしゃるもの、強化していきたいものはありますか。
紙媒体は新聞に折り込まれる形で30万部を発行していますが、書店などで販売されていないので、読売新聞を購読していない=marie claireを読む機会がないという面もあります。そこを打開していくのがデジタルとSNSです。4月からは、紙もデジタルも統括しているので、同じ企画テーマであっても、プラットフォームによって切り口を変え、ストーリーテリングを大切にした構成を意識しており、動画コンテンツも強化中です。カルチャー系の記事を増やし、女性のエンパワーメントについてもフィーチャーするなど、marie claire本来の哲学を反映した記事作りを進めているところです。ビューティコンテンツも商品レビューや新作紹介にとどまらず、美しさの本質といったコンセプチュアルな内容を取り入れています。デジタルやSNSは数字においてバズが求められるものですが、長い目でみたときのブランド力、何よりも信頼性が大事です。

――「le salon de marie claire」では、30代、40代の女性会員を中心に構成されています。ビジネスの観点からみると、この会員組織に強い興味・関心を示す企業も多いと聞いています。会員組織に対する展望をお聞かせください。
会員組織を作ることの目的は大きく二つあります。一つ目は、熱量が高く良質なオーディエンスが集うコミュニティを作ることです。参加する皆さんは、ご自身と同じ価値観やライフスタイル、アイデンティティを共有できる場所を求めています。もう一つは、ビジネスやマーケティングの観点におけるデータ指標の創出です。精度を高め、明確な傾向を測るためには、一定の母数が欠かせません。今後、会員数を増やしていくなかでプレミアム会員と無料会員といったようにカテゴリーを分けることも視野に入れています。有料でも入ってくださる方々は、メディアに深く共感し、応援してくださる強力なファンの皆様。そういう方々が満足してくださる特別な付加価値をお届けしたいです。一方で、ゆるやかなサポーターとして無料会員の輪を広げていくことで、コミュニティ全体のデータをより多角的にとらえやすくなり、価値あるインサイトを生み出せる会員組織へと成長していけるのではと考えています。
新聞社が母体だったからこそできたこと
――marie claireは読売新聞グループのリソースの一つになります。新聞社だから実現できること、読売新聞グループのリソースを使って、marie claireができることや、やってみたいことはありますか。
私は、そこが強みだと思っています。読売新聞社は公的な信頼が厚く、さまざまなチャネルを持っています。その点では、他国のmarie claireにはないケースですし、私たちのアドバンテージだと思っています。例えば、昨年スタートした「marie claire TV」は、読売グループの中にテレビ局があり、協力体制が整ったからこそ実現できたことです。また、日本版ならではのコンテンツ作り、ローカライゼーションも非常に重要なことだと考えていて、日本独自の文化や職人の技など、私たちが守りたいものや伝えたいものをmarie claireの視点で届けたい。その点でも、「Action!伝統文化」のプロジェクトをはじめ、文化を次の世代へ繋いでいくことに会社自体が熱心に取り組んでいることは、部署を超えてコラボレーションし、大きなムーブメントにできるチャンスです。日本版を初めて発行した現・中央公論新社には貴重なアーカイブもあり、今後のコンテンツ作りにも生かしていければと思います。

――2027年は、本国での創刊から90年、日本で発行されて45年というタイミングを迎えます。日本版として発信していきたいことはありますか。
さきほどもお話しましたが、日本ならではの文化や食など、海外のオーディエンスからも面白いと思ってもらえる記事を増やしたいですね。でも、それはあくまでも一部のコンテンツの話。まだ詳しくはお伝えできませんが、さまざまなリソースを生かし、今の時代に必要な「自分軸」のヒントをお届けしたい。そして、読者やクライアントの皆様はもちろん、このメディアに関わるすべてのメンバーが楽しく一緒に盛り上がれるようなアニバーサリーイヤーになれば。これからも魅力的なメディアでいられるための土台作りをしていきます。
後編はこちら:読売新聞のリソースをフル活用した「marie claire」が持つ可能性