知ってた?
これがホントのアルゼンチン人
特命全権大使 がお教えします!

 日本から地理的に最も遠い国の一つがアルゼンチン。両国を結ぶ飛行機の直行便はなく、アメリカやメキシコで乗り継いでも1日以上かかります。それにもかかわらず、アルゼンチンに親近感を抱いている日本人は多いようです。サッカー、アルゼンチンタンゴ、そしてイグアスの滝やパタゴニアといった大自然……。近年は、手ごろな価格で楽しめるワインのファンという人も多いのでは?南北に長く、広大な国土で暮らすアルゼンチンの人たちの日常とはどのようなものなのでしょう。2016年4月に着任したアラン・ベロー大使に聞きました。

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マテ茶、ストローを動かしちゃダメ!

 マテ茶はモチノキ科の常緑樹の葉や枝を乾燥し、粉砕、精製したものを使った国民的飲み物。ミネラル分が豊富で「飲むサラダ」とも言われています。肉食中心のアルゼンチンでは欠かせません。砂糖やミルクを加えるなどアレンジは自由。ティーバッグ入りのものもあります。
 伝統的な飲み方は、茶葉を「マテ」というヒョウタンなどから作った卵形の容器に入れ、80度程度に沸かしたお湯を注ぎ、「ボンビージャ」という茶こし付きのストローで飲みます。飲みやすいよう、お湯を沸騰させないのがコツです。
 回し飲みも一般的です。その場合はお湯を注ぐ係がいて、一人が飲み干すと、お湯を注ぎ足して別の人に渡してくれます。人数が多いほど、全員が飲み干すまで時間がかかり、ゆっくり話ができるというわけです。その際のルールはボンビージャで茶葉をかき回さないこと! 茶葉が詰まったり味わいが変わったり、後の人が飲みにくくなってしまうからです。

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ナイフ1本、ガウチョは草原を行く

 広大なパンパ(草原地帯)で牛を追うガウチョは、アルゼンチン人のアイデンティティーのよりどころです。銃器を持たず、「ファコン」と呼ばれる短剣のみを携え、西部劇に出てくるカウボーイにたとえられることもありますが、私はむしろ日本のサムライに近い存在だと思っています。武芸に秀で男気があるからです。
 ガウチョがかかわる牛を使った伝統料理はアサードと呼ばれています。かみ応えのある牛の赤身肉のバーベキュー。「歩く動物はみなアサードになる」ということわざもあるほどで、牛以外に羊や鶏、豚もアサードにします。私も子供のころはほぼ毎日、夕食はアサード。日本人1人の1年間の牛肉消費量は10キロありませんが、アルゼンチンでは65キロ近い。ですから、あっさりしたマテ茶が合う。お酒なら、マルベック種のアルゼンチン産ワインがぴったり。
 日本でもレストランなどではアルゼンチン産の牛肉が楽しめるようになりました。今後はスーパーなどで販売し、日本の皆さんにもアサードを楽しんでもらいたいと思っています。

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大学の最終試験、終わると全身ドロドロ

 アルゼンチンでは大学を卒業するのが大変難しい。ですから、大学の最終試験に合格すると、盛大にお祝いします。そのお祝い方法が独特なんです。友人らが寄ってたかって合格した学生に卵をぶつけたり、マテ茶をかけたりするんです。それこそ目いっぱいの力を込めて。
 さらに小麦粉、ケチャップ、マヨネーズ、絵の具などなんでもありで、その日は全身ドロドロになってしまう。だから、その日はどんなに汚れても構わないボロボロの服を着て出かけます。私の娘も最近最終試験に合格して、この洗礼を受けたばかりです。由来はわかりませんが、アルゼンチンの人はその風習をむしろ楽しんでいる様子です。
 義務教育は、就学前の4歳から17歳まで。大学入学前の学制は、初等学校と中等学校に分かれていて、公立の学校の場合は授業を受ける時間を午前からにするか午後からにするか選ぶことができます。私は午後からの授業を選んでいました。

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仕事納め、オフィスの窓から〇〇が…

※ 画像はイメージです。

 年末の仕事納めの日の光景もアルゼンチンならではです。不要になった書類を裁断して、オフィスの窓から紙吹雪のように投げ捨てます。あるいは、船出の時のセレモニーのように書類を紙テープのように加工して投げたりもする。ちなみに日本の大使館ではそんなことはしませんよ! 大学の最終試験に合格した人に対する洗礼もそうですが、アルゼンチン人は喜びをストレートに表現しようとする傾向があるようです。
 仕事の関連で言えば、アルゼンチンにはシエスタ(昼寝)の風習が残っています。ブエノスアイレスのような都会ではすたれつつありますが、20年前はごく一般的な習慣でした。赤道に近い北方を中心に昼間が暑いので、早朝と夕方以降に仕事をして昼は休憩する。実際、シエスタの時間は街中の施設や店が閉まってしまうので、昼寝以外することがないんです。

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娘15歳の誕生日、まるで結婚式!

 スペイン語で「15歳」を意味する「キンセアーニョス」は女性にとって大切な行事です。まるで結婚式でもするように盛大なお祝いをするんです。元々、成人した女性を世間に紹介する意味合いがあったようです。
 レストランなどを貸し切りにして、招待客にフルコースの食事をふるまい、その合間にダンスや15歳になった女性の成長のビデオなどを流し、お土産を渡す場合も多い。破産覚悟でパーティーの準備をする親もいるほど。15歳の誕生日を迎えた女性は華やかなドレスを着て、父親がエスコートして親戚や知人にあいさつをする。招待客もドレスアップして出席します。
 夜の9時ぐらいからパーティーが始まって、朝6時ぐらいまで続く。結婚式並みにお金がかかるので、招待する人の数は各家庭によってまちまち。私の娘の時は100人ぐらい招いたと思います。娘にとっては一生に一回のことでもあり、私たち家族にとってもいい思い出になっています。

アラン・ベローさん
(アルゼンチン共和国特命全権大使)

1957年生まれ。ブエノスアイレス大法学部(公共国際法専攻)卒業。84年にアルゼンチン外務省入省。駐ベネズエラ大使館参事官や欧州連合アルゼンチン政府代表部公使などを経て2016年から現職。日本へは単身赴任。子供は3人。

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