広告企画・制作 YOMIURI BRAND STUDIO

TOKYO GREEN BIZ

Vol.3

2024/2/14

一人ひとりの参画が、未来を駆動する──
緑と生きる都市、東京へ

東京都は100年先を見据えた新たな緑のプロジェクト「東京グリーンビズ」を推進し、東京の緑を「まもる」「育てる」「活かす」取り組みを強化し、自然と調和した持続可能な都市への進化を目指している。
当プロジェクトでは、さまざまなステークホルダーとの対話を重視し、コミュニケーションの機会を多様な形式で設けている。本企画では、その対話の内容や外部有識者からの声などを3回にわたって特集してきた。
第3回では、東京都が木材利用の拡大に向けて設置した国産木材の魅力発信拠点「MOCTION(モクション)」の館長も務める建築家の隈研吾氏に、持続可能な都市像や100年先を見据えた東京のまちづくりへの提言を伺った。

Vol.1 若者と対話重ね、自然と調和した都市像探る 東京グリーンビズ

Vol.2 都心ならではの緑の価値広める 東京グリーンビズ

屋外空間に可能性 未来はより「ウォーカブル」

東京都が「東京グリーンビズ」をはじめとする取り組みを推進し、未来の都市像を描いていくうえで、どこにウエイトを置くべきなのだろうか。隈氏は、世界各国で「生活の屋外化」が進みつつあると指摘する。
20世紀の産業社会では空調とコンクリート建築が発達し、生活や仕事は、隔離された屋内空間で行うのが先進的とされた。それが今では、環境負荷の高さや、感染症流行時に「密」になるといった課題もあらわになっている。
「建築家としてコロナ禍で痛感したのは、屋内に閉じた空間が、いかに精神と肉体にストレスを及ぼしていたかということ。外の空間に、人間の活動を戻す時がきたと思うのです。みんながリモートワークを経験し、公園やテラス席など屋外空間のほうが気持ちよく働けるのを知ったことが、変化のきっかけになるのではないでしょうか」
これからは、公共空間づくりに一層意識を向けるべきというのが隈氏の意見だ。例えば広場、道路、歩道などに植物やウッドデッキといった木材を取り入れるだけで、空間自体がよりやわらいだ印象を帯びる。「公共空間がやわらかくなるほど、屋外に人が戻ってくる。屋外に人が多く戻れば、地球環境全体の負荷が減る──。自然環境と都市機能の調和を目指す東京グリーンビズの取り組みの奥には、そうした哲学が秘められていると感じます」
将来、自然と調和した都市は、どんな姿をしているのだろうか。隈氏はそのヒントとして、ウォーカブル(歩きやすい、歩いて楽しい)という言葉を挙げた。
「歩く行為そのものが、心身両面の健康を改善します。特に緑のなかで日光を浴び、風に吹かれ、土を足下に感じながら歩くのは、リラックスできてどこかワクワクする体験です。緑が増えるほどにそんな機会が数多く生まれるでしょう」
江戸・東京の歴史を振り返ってみると、元来丘陵と水系が入り組んだ自然を活用し、微妙な起伏に合わせたまちづくりが営まれてきた伝統がある。
隈氏は「地形、緑、人間の生活がシンクロしたアーバンデザインは、東京が持っている世界でも希有な財産」と評価し、「東京グリーンビズでは、地形の変化に富んだ東京の特性を生かし、歩いていてワクワクする都市にしていくことも、大きな柱にしてほしいですね」と力強く話す。

Marunouchi Street Park 2023 Summer
(丸の内仲通り)
丸の内仲通りのあり方や屋外空間の活用方法の検証を目的にスタートした社会実験。
まちづくり協議会やデベロッパーなどにより、人工芝の施設方法の検証や、常設化に向けた耐久性の高い什器の検討などを、世相にあったイベントとのコラボなどにより実施し、「ウォーカブルなまちづくり」に寄与している。
FUN MORE TIME SHINJUKU
(新宿4号街路、12号街路等)
新宿副都心4号街路を中心とした公開空地や道路空間などを活用し、人々の滞在・交流を促進するための社会実験。
東京都と新宿区により『西新宿地区再整備方針』が策定され、ウォーカブルな都市空間を形成するなど未来の西新宿を疑似体験できるようにしている。

効能活用から不燃化まで、木材利用も進化

隈氏にとって、木はただの素材ではないという。「木は、まるで生きものなんです。温かみがあって、空間の雰囲気を和らげます。飼いネコがそこにいるみたいに、人をリラックスさせるんです」と笑う。実際に近年の研究で、木を使った空間では集中力が高まる、学習効果が上がる、ストレスを減らすなど、木のポジティブな効果に対して科学的な裏付けが出揃いつつある。
生きものだからこそ、木材を「きちんと生かす」ためには技と知恵が要る。建築においては、コンクリート躯体の表面に化粧材として木を貼るだけでは不十分だと隈氏は力説する。
「木の柱をしっかり立て、屋根で守られ、優しい風を中に導く。そんな日本の木造建築に向き合ってこそ、樹木が映え、かつ機能的な建築を実現できます」。また比較的小径で、繊細な印象を与える木材は、微妙な地形の変化に応じて設計するにも最適なのだという。
隈氏は公共施設や都市計画のプロジェクトにおいても、木材を多用。そこには「公共の場に木を使うことで、市民一人ひとりが親しみを感じ、自分たち共有の財産だという意識転換が起これば」との願いがあると話す。まさにこれからの公共空間は、自宅リビングや公園のような心地よい雰囲気で、誰もがアクセスしたくなる場所に変わっていくのだろう。
注目すべきことに、この20年ほどで木の不燃化技術が大きく進歩し、より安心・安全な建物を作れるようになってきている。建てた後でも改修・改変しやすいという木造の利点も相まって「100年単位で木造建築が使われ続ける時代が来る」と隈氏は予測する。
不燃化・難燃化は火事防止だけでなく、安全性向上で一層需要が高まり、適切な林業経営のもと、洪水緩和といった森林機能の向上につながる。また木は育成時に、温暖化ガスを吸着してくれる。多面的な防災機能を地球にもたらすのだ。
最近は若手建築家たちが積極的に木造に取り組むなど、日本でも木の再評価が広がっているという。課題は、海外の安い木材を使ってしまうと、輸送時に温暖化ガスを排出し、木材を使う意義が半減してしまうことだ。
地元の木を使う必要性が改めて注目されるなか、東京グリーンビズは多摩産、国産の木材を活用し、都内全体の自然資本を循環させていく未来像を提案している。隈氏は「地域で木を守り、育て、活かすところまでつながっている一気通貫の仕組みは、日本でしか見たことがありません」と、この点が日本の強みになりうるとの展望を述べた。
木の効果を屋内外で活用し、森林を守り、育てていく──。木の先進国への道は、このサイクルの先に広がっているのかもしれない。

とうきょうの木魅力発信拠点

「TOKYO MOKUNAVI(モクナビ)

多摩産材の利用事例

京王あそびの森 HUGHUG(日野市)

世界でも希有な東京の緑 守るのは一人ひとり

隈氏自身、今の東京の緑をどう見ているのか。「東京を歩いていると、路地に面した家や寺社などの緑が、いきいきと目に飛び込んできます。『私』の空間で維持される緑と、街路樹や公園といった『公』の緑が混在し、境界線が溶け合っているのが面白いですね。小さなスケールの緑がたくさんあるのは世界中の大都市でも珍しい東京の特徴です」
一方で東京のこれからの緑に関して危機感もあるという。
「江戸の町人は、緑は自分で育てて自慢するものだという、緑に対するある種の責任感をみんなが持っていました。それがいつしか、緑は誰かから与えられるものだというふうに“退化”してしまったように感じます。これでは都市の緑は、育っていきません」と、一人ひとりが“自分ごと”として、緑に向き合う必要性を隈氏は訴える。
こうした緑のメンテナンスに自分が参加するということは、まさに、未来の東京づくりに参加することを意味する。東京が培ってきた地形や自然と調和するまちの力を見直し、公私の緑を大切にする文化を取り戻すことが、緑と都市機能が調和した生活環境につながっていく。
「この先の100年、東京が緑との関係をつなぎ直せば、世界のどこにも負けないまちになる」と隈氏。その目には、緑に包まれ、緑と生きるまちとして発展した100年後の東京が映っているようだった。

都立明治公園 植樹祭

※提供:Tokyo Legacy Parks株式会社

東京都では、まちのシンボルとなる緑豊かな空間を創出するなど、緑あふれ、人が憩い、楽しく歩くことができる都市空間へ再編する取組を進めている。一人ひとりの参画を促す取組としては、都内の緑に関するイベントや街路樹・樹木の情報を一体的に取得できるウェブサイト「東京グリーンビズマップ」の作成も予定されている。
東京グリーンビズでは、こうした取り組みをさらに広げ、さまざまな年代や職業の方々との協働を通じながら、自然と調和した持続可能な都市づくりを目指していく。

東京グリーンビズ

MOCTION(モクション)東京都は、木材の大消費地である東京でのさらなる木材利用の拡大に向け、国産木材の魅力を発信する拠点「MOCTION(モクション)」を開設しています。東京の木 多摩産材を使った新たなオフィス空間の提案や、国産木材の展示スペースを全国の道府県に活用いただき、各地域と東京を結ぶ商談の機会を広く提供しています。これにより、全国各地の木材利用促進、さらに森林循環へと繋げていきます。