新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、
毎日の暮らしをはじめ将来の生活に対する不安感が社会全体を覆っています。
日本の公的年金は、将来、だれもが安定した生活を送ることができるようつくられ、
社会全体で生活を支え合う機能を持っています。
連合の相原康伸事務局長と人気テレビ番組「笑点」でおなじみの山田たかおさんが
テレビ電話で対談し、公的年金について語り合いました。
新型コロナウイルスの感染拡大は、
私たちの生活にさまざまな影を落としています。
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芸能人は、コロナの影響で大変なことになっています。
私たちの仕事は保障が全くありません。仕事がなくなると一銭も入らなくなります。
私のところに「仕事がないので付き人をさせてほしい」といった相談もありました。
大御所の芸人の先生も「仕事がなくて困った」と話しています。
今、生きているのが精いっぱいで、将来まで考える余裕がない人もいると思います。私も今年の2月に38年ぶりに「ずうとるび」を再結成して、メンバー5人でライブを行いましたが、コロナの影響でライブ活動を休止しました。予定していた講演会も中止になりました。
講演会では、いつも「笑いは健康、長寿のもと」と話していますが、
みなさん、家から外に出て行けずに話す相手も少なくなると、つらい状態になると思います。
生活不安についての声もよく聞かれます。
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みんな、生活の不安でいっぱいですよ。
私自身は、芸能人は何かあっても保障がないからと生活不安を解消するために、不動産の勉強をしてマンションを購入して、マンションの家賃収入を得ています。周囲には、「今を生きるのが精いっぱい」という人もいます。
毎日、「明日、何を食べようか」「生きるためにどうやってお金をやりくりするか」を考えていて、将来について考える余裕がない人もいます。
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今、山田さんのお話にあったようにマンション経営も手段の一つですが、公的年金という制度がなければ、将来の生活不安に備えて、あらかじめ自分で貯蓄をするか、子どもに世話になると頼んでおくかといった選択肢になると思います。
貯蓄をする場合は、自分自身が何歳まで生きるかを想定する必要があります。
現在、公的年金の受給者は約3500万人です。
このうち年金だけで生活している高齢者は全体の約半分を占めており、公的年金は、日本の社会保障制度の中核的な役割を担っています。
社会保障の柱である公的年金制度の
課題を教えてください。
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現在の状況では、「何歳になったら公的年金を受給できるのだろうか」という不安があります。
私の息子世代だと、公的年金の受給開始が70歳からという可能性もあります。60代で年金を受け取れないと、「毎月、なんで年金にお金を払わなければならないのか」と感じる人も出てくるでしょう。年金保険料を払わずに公的年金制度に参加しないという選択をする人がいても不思議ではないと思います。
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自分が払い込んでいる年金保険料は、将来、給付という形でしっかり返ってくるのか、早い段階で受け取れるようになるのか、それとも負担に見合う給付はないのか。
さまざまなケースを想定して、公的年金の将来に不安を感じている人がいるでしょう。こうした中で、現在、公的年金制度を見直す年金改革関連法案が国会で審議されています。
その法律案をしっかり見て今年6月までに、どのように審議が進むかを見ていくことがとても大事です。実際、公的年金制度への参加者を増やすことが、持続可能性を維持していくうえで重要なテーマの一つです。
今のままだと年金の給付水準は大きく低下していってしまいます。
まずは公的年金のうち、すべての人が対象となる、制度の1階部分である基礎年金の基盤を強固にすることが大切です。
例えば、保険料拠出期間を65歳まで延長するなど、制度を支える側を増やすことが必要です。
また、働き方や勤務先に関係なく、多くの人が2階部分の厚生年金にしっかり適用されるようにすることも大切です。
「全世代が全世代を支える」社会保障にするために、全世代が相応の負担をする必要があります。
公的年金制度には、
その時代の経済や社会情勢も影響します。
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山田さんが生まれた1956年や僕が生まれた1960年は、男性の平均寿命は65歳くらいでした。
今は平均寿命も長くなり、退職した後の生活をどう支えていくかが大切になっています。
また1975年から10年間くらいまでに生まれた人たちは、「就職氷河期」と言われ就職する時の経済環境が悪く、将来、受給できる年金額が低くなりがちです。
約800万人ともいわれる団塊ジュニア世代が多くを占めていて、2035年ごろに高齢期に差しかかります。現役時代の働き方の差が高齢者になった時の差として影響します。
大きな社会問題になる前に、社会全体で生活を支え合う公的年金の所得再分配機能の強化といった制度改革が必要です。
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そういう意味では、現在の「コロナ不況」と言われる経済情勢の影響も心配です。
また、個人の思いとしては、公的年金は、だれもが「入ってよかった」という制度にしてもらいたいです。例えば、スウェーデンは、社会保障が充実している「幸せな国」という印象があります。日本も「みんながよかった」と思える社会保障制度を持つ国を目指して頑張らないとダメなんじゃないでしょうか。
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スウェーデンでは、税と社会保険料を合わせると、国民は日本より相当高い負担をしていますが、負担に対する給付内容が明確になっています。
制度をはじめ政府に対する信頼度が高く、国民も納得の上で負担をして、制度が安定するという好循環がつくられてきました。日本でも自分が納める税金や保険料の負担と給付のバランスをどう考えるかが大事です。
これからの公的年金制度を考えるうえで、
大切な視点とは何でしょうか。
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家族そろって、年金の将来について明るく笑って話をすることが大事です。
私は「笑点」で36年、6代目座布団運びとして、「座布団と幸せ」を運んでいます。
「座布団党」の党首として、みんなが幸せで元気で長生きできる国であってほしいと思っています。
「いい政治には、座布団1枚差し上げます」という気持ちです。実際、私も出演者への「思いやり」として板の間は足がしびれて立ち上がれなくなるので、必ず、座布団1枚は置いています。
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公的年金の仕組みは、その時代の現役世代が受給世代を支える「賦課(ふか)方式」です。
特にすべての人の生活を支える基礎年金は、山田さんの思いやり、板の間に置く1枚の座布団の考え方にも通じると思います。
みんながみんなを支える安心の仕組みです。
我々は、「誰ひとり取り残さない社会」をめざしています。
山田さんから頂いた言葉を大切に多くの人たちにつないでいきます。
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「座布団も年金も継続が力なり」ですね。
PROFILE
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山田 たかお
タレント1956年東京都生まれ。1973年「ずうとるび」を結成、1975年にはNHK第26回 「紅白歌合戦」に出場を果たすなど、爆発的人気に。落語家としても、鈴々舎馬風門下で、鈴々舎鈴丸として高座にあがる。1984年からは日本テレビ「笑点」にレギュラー出演中。
演技にも定評があり、「必殺仕事人」などのテレビドラマにレギュラー出演したほか、スピルバーグ監督「太陽の帝国」をはじめ映画にも多数出演。
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相原 康伸
日本労働組合総連合会 事務局長1960年東京都生まれ。法政大学経営学部卒業後、トヨタ自動車株式会社入社。トヨタ自動車労働組合執行委員、副執行委員長を経て、2002年全トヨタ労連事務局長。2008年自動車総連事務局長、2012年同会長、および日本労働組合総連合会(連合)副会長。2017年10月より、現職。
公職としては、厚生労働省労働政策審議会委員、文部科学省中央教育審議会委員、経済産業省産業構造審議会委員を歴任。