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は、
「心」

猫写真家
沖 昌之Masayuki Oki

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自由に生きる“外猫”たちの姿を
独自の視点で捉え続けている
猫写真家・沖昌之さん。
写真集『必死すぎるネコ』の
ヒットをきっかけに一躍注目を集め、
いまや「外猫撮影の第一人者」として
国内外の猫愛好家から支持を集めています。
そんな沖さんに『猫島』として知られる
湯島(熊本県)で撮影していただきつつ、
猫たち、そして写真との向き合い方について
伺いました。

2025年7月 湯島(熊本県)で撮影

Chapter
01

猫のシャッターチャンスには
「予兆」がある

2025年7月 湯島(熊本県)で撮影

性格や行動パターンから“次”が見えてくる

ずっと猫を撮っていると、それぞれの性格の違いが見えるようになってくるんです。例えば、人間と関わるのが苦手な子もいれば、すごく挨拶好きな子もいる。血がつながっていても仲が悪い子たちもいれば、「赤の他人」の子猫をあやすオス猫もいる。

僕は元々「猫は外見がかわいい」と思っていたんですが、撮影すればするほど、内面のかわいさに惹かれるようになってきました。だからいつも、その猫の個性であったり、心が見える瞬間を狙って撮影するようにしています。

そして、猫の動きには必ず予兆があります。例えば、身をかがめてイカ耳の状態は「警戒して身構えてる状態だな」とか。尻尾がふくらんでいたら「怒ってるな」とか。僕はそういう一つひとつの兆しを見逃さないようにしながら、次の行動を読んでシャッターを切るようにしています。

2025年7月 湯島(熊本県)で撮影

気ままな過ごし方も外猫の魅力

外猫の魅力の一つは、日常がぜんぶ「自然体」なことです。今日は風が通るからここにいようとか、車の下が涼しいから今日はここで寝ようとか。観察していると、猫なりの判断で毎日を生きているのがよく分かりますよ。前の日は見向きもしなかった落ち葉に、あくる日は夢中になっていたり、そういう気まぐれなところも魅力です。

暑い夏の日などはずっと寝ていることも多いですが、そんな日でも、動く時間帯はちゃんとあるんです。涼しくなってきた夕方とか、朝ごはんの前とか。そういうときに撮影のチャンスが生まれるから、なかなか撮れないときでも「明日は撮れるだろう」と、前向きな気持ちで臨んでいます。

『必死すぎるネコ~一心不乱篇~』(辰巳出版)より

写真はひと目で伝わる“世界の共通言語”

僕の目標は、猫の写真で世界中の人を幸せにすること。例えばSNSに写真を載せて、見た誰かがクスッと笑ってくれたら、それでいい。

写真って言葉がいらないので、外国の人にもすぐに伝わりますよね。「ボクサーみたいに見える猫」や「電動カートを運転してるように見える黒猫」なんて、何の説明もしなくても、見た瞬間に笑ってもらえる。それがいちばん嬉しいんです。見る人が自由に解釈して、勝手に楽しんでくれたら、それが正解。僕はそう思っています。

『日常にゃ飯事』(インプレス)より

Chapter
02

人生を変えてくれた
「ぶさにゃん先輩。」

仕事で手にしたカメラにのめり込む

これまでに出会った中で最も印象深い猫といえば、僕の人生を変えてくれた「ぶさにゃん先輩。」です。

そもそも僕がカメラを手にするようになったのは、婦人服の販売員時代でした。それまではとりわけ写真好きだったわけでもなく、撮影経験もなかったのですが、社長の着こなしを撮ってブログに掲載する仕事を任されたんです。

最初は全然うまく撮れなくて、毎日のように怒られていました。それでも次第にカメラが面白くなってきて、休みの日には当時建設中だったスカイツリーや、中目黒で行われていた「青の洞窟」(イルミネーションイベント)を撮りに行ったり、いろんなお店のパンケーキを食べに出かけて撮影したりしていました。

『ぶさにゃん』(新潮社)より

抱いていた猫のイメージが一変

そうして迎えた、2013年の大晦日。仕事の休憩中に立ち寄った公園で出会ったのが「ぶさにゃん先輩。」でした。ふくよかな体つきで、道の真ん中にどーんと寝転んでるんですよ。「あれ? 猫ってもっと繊細で、警戒心が強いと思ってたのに…」と驚きつつ、「この子をちゃんと撮ってみたい」と思いました。それが、猫写真を撮るようになった原点です。

何より衝撃だったのは、「ぶさにゃん先輩。」がとんでもなく人懐っこくて、人に媚びまくっていたこと。例えば、朝はそれぞれ違う人から3回ごはんをもらっていて、毎回スキップするみたいにお腹をタプンタプンさせながら、嬉しそうに近づいていくんですよ。

「猫は媚びない生き物」と思っていた自分の固定概念が、根本から崩れた瞬間でした。

『必死すぎるネコ』(辰巳出版)より

とりあえず名乗った「猫写真家」

2014年4月、僕はアパレル会社を辞めました。仕事をしていたら誰しも「もう辞めてやる!」と思うことがありますよね。それが、その日の僕は「本当に辞めよう」となってしまった。魔が差したというんでしょうか。

婦人服のお店の常連さんには何人か僕を可愛がってくれた人がいたので、なんの準備もせずに退職したことを知ったら、ひどく心配されたり、怒られたりしてしまうかもしれない。そこで「とりあえず『猫写真家』って名乗っちゃえば怒られないだろう」と、名刺とブログを作ったんです。それが僕の、猫写真家としてのスタートでした。

親に「詐欺」と疑われた、初めての写真集『ぶさにゃん』

そんな中、2015年5月に参加した猫の合同写真展での出来事が、猫写真家としての人生をまた一歩進めるきっかけになりました。展示を見たライターさんが僕のことを記事にしてくださることになって、その取材で夢を聞かれたときに、僕は「写真集を作りたい!」と答えたんです。

その記事を、たまたま僕のブログの読者でもあった新潮社の編集者の方が読まれて、「他社で出される前に」とメールをくださり、とんとん拍子で写真集を作ることになりました。嬉しくなって実家の母に報告したら「あんたが新潮社で本を出す?それ、新手の詐欺と違うの?」ってめちゃくちゃ疑われましたけど(笑)。

そうして出来上がったのが、最初の一冊『ぶさにゃん』(新潮社)です。おかげさまで、たくさんの方に猫写真を見ていただくことができました。

2025年7月 湯島(熊本県)で撮影

Chapter
03

『EOS R1』で
「撮る楽しさ」を思い出した

とっさに撮っても、理想的な一枚に

僕の撮影のスタイルは『EOS R1』を使い始めてから、大きく変わりました。このカメラには動物用のAF(オートフォーカス)モードがあって、猫を自動で認識し、瞳にまでピントを合わせてくれるんです。

以前はファインダーを覗き、ちゃんとピントを合わせて、それでも外してしまうことが多かった。でも『EOS R1』なら、被写体に向けさえすれば、たとえ自分がファインダーを覗かずにシャッターを切っても、驚くほどいい写真が撮れてしまうことがある。実際、突然草むらなどから飛び出してきた猫を反射的に撮ったとしても、しっかりピントの合った写真が撮れているんです。

これまでの自分なら絶対に撮れなかったような写真が撮れるようになった。そのことで「写真って楽しい!」という、初めて一眼レフカメラを手にした頃のような気持ちが甦ってきました。

2025年7月 湯島(熊本県)で撮影

階段に集まってきた6匹の猫

今回湯島で撮影した中で特に気に入っているのは、猫たちが階段に並んだ一枚です。湯島はこれまでにも5、6回訪れていて、そのたびに「この階段に猫が並んだら面白いだろうな」と思っていたので、嬉しかったですね。

最初は2匹しかいなかったのに、次々と猫が集まってきて、最終的には6匹。しかも、まるでこちらの指示に従ったかのように、階段の真ん中に整列してくれた。これは僕の撮影人生の中でも、かなりの“奇跡”といえます。

夏場はなかなかいいシーンが撮れないものですが、暑くても1日1回は猫が動く時間帯がある。その瞬間を信じて通い続けたことで、この一枚に出会えたのだと思います。

2025年7月 湯島(熊本県)で撮影

猫が「擬人化」する瞬間も楽しい

「ロープを担いでいるように見える猫」の写真も気に入っています。猫がロープに匂い付けしているだけなんですけど。両方の前足を使ってロープにつかまっていて、しかも表情も楽しそうだから、まるでお神輿か何かを担いでいるように見えてしまうでしょう。こんなふうに擬人化して見えるのも、猫写真の魅力のひとつですね。

僕は「こう撮りたい」とか「この表情を引き出したい」とは考えないタイプです。構図や背景は意識しますが、基本的には猫が“勝手にやってくれる”のを待っているだけ。その中で、自分が想定していた面白さを超える瞬間がくると、テンションが上がるんですよね。

猫の写真はどれだけ撮っても魅力が尽きないので、ゴールはありません。これからもたくさんの猫に出会い、撮影し、見てくれる人を笑顔にしたいと思います。

沖 昌之氏
猫写真家
沖 昌之さんMasayuki Oki
1978年神戸生まれ。家電の営業マンからアパレルのカメラマン兼販売員に転身。初恋のネコ「ぶさにゃん先輩。」の導きにより2015年に独立。猫専門誌『猫びより』(辰巳出版)の「必死すぎるネコ」など連載多数。『これネコ それネコ?』(インプレス)、『ぶさにゃん』(新潮社)、『残念すぎるネコ』(大和書房)、『にゃんこ相撲』(大空出版)など著書多数。2017年刊行の代表作『必死すぎるネコ』(辰巳出版)は5万部突破のベストセラーに。