知ってた?これがホントのマレーシア人
特命全権大使がお教えします!
東南アジアで海上貿易の要衝として発展を遂げてきたマレーシア。様々な民族が共存して暮らす多民族国家としても知られています。一年を通して温暖で物価も安いため、日本からも観光客に加え、中高年を中心に長期滞在を楽しむ人が近年目立つようになりました。社会から寛容さが失われつつある今、異なる文化的背景を持つ人たちがどのようにして暮らしているのでしょうか。今年1月に着任したばかりのダト・ケネディ・ジャワン大使に聞きました。
世界で唯一、
王様は選挙で選ばれます
Photo courtesy of Istana Negara (National Palace)
マレーシアは1957年、英国から独立し、ヤン・ディ・ペルトゥアン・アゴンと呼ばれる国王のいる立憲君主国として再出発しました。国王は政治的な実権を持たない象徴的な存在で、マレー半島9州のスルタン(州王)が任期5年の持ち回りで即位するという世界にも例のないユニークな仕組みを採用しています。9人のスルタンが出席する統治者会議で秘密投票を行い、新国王を選びます。
日本では最近、皇位継承が行われ、令和時代を迎えたわけですが、マレーシアでも今年、国王が代わったばかり。15代国王のムハマド5世が今年1月、任期3年を残して退位し、パハン州のアブドゥラ・アフマド・シャー州王が新国王に選ばれました。
日本の皇室との関係も良好で、歴代のマレーシア国王は7回訪日しており、上皇ご夫妻もマレーシアを3回訪問されています。天皇陛下も皇太子時代の2017年に公式にマレーシアを訪ねられています。
様々な民族が
仲良くできる「理由」
Tourism Malaysia
私自身、ボルネオ島サラワク州で暮らしているイバン族という先住民族の出身で、キリスト教徒です。マレーシアに暮らす人は幼い時から民族の多様性に親しんでいて、民族の文化的、宗教的な違いを理解しており、その違いに対しても寛容です。そのことがマレーシアの強みにもなっています。
多民族国家なので、マレーシアでは一年を通して様々な民族のお祭りを見ることができます。異なる宗教の人の家に呼ばれて、一緒に食事をしながらお祝いすることもあります。「国民の祝日」も華人の旧正月、釈迦の生誕を祝う仏教徒の祝日、断食明けを祝うイスラム教徒の祝日などがあります。私の属すイバン族の新年は6月1日から始まるのですが、国の祝日ではありません。しかし、イバン族の多いサラワク州では6月1日は州政府の休日なんです。多民族なのですべてを国の祝日にしていたら、平日がなくなってしまいますから。
宗教的な行事にも寛容で、イスラム教徒が断食期間中、他の宗教の人は日中に飲食しますが、イスラム教徒はそれを非難したりはしません。自らの宗教的な慣習を他の宗教の人に強要するということはないのです。
「ハラルコンセプト」
ご存知ですか?
Tourism Malaysia
職場でもみんなと一緒によく食事に行きます。早く会社に行った日には、出社している同僚たちと朝食をそろって食べに行くこともあります。
主な料理は、マレー系、中国系、そしてインド系。さらにニョニャ料理というマラッカに根付いている料理も人気があります。
私が好きなのは、ナシ・レマッというマレー料理。ココナッツミルクで炊いたご飯にゆで卵や小魚を揚げたものなどを添えたもので、朝食としてよく食べます。
また、宗教によって食べることができない食事や独特の調理法があるので、大勢の人が集まる宴会で出される料理は、豚肉や牛肉を使わず、みんなが食べられるチキンやシーフードを使った料理が出されます。こうした宗教によらずだれもが食べられる料理を「ハラルコンセプト」として国内外に広める活動も行っています。
何と国民ほとんどトリリンガル!
国語はマレー語ですが、それぞれの民族の言葉も話します。さらに英語も話せるので、マレーシアでは三つの言語が話せるトリリンガルの人が多い。実際、大勢の人が集まると、共通語としてマレー語か英語が使われることが多いのです。
テレビもマレー語、中国語、英語、そしてタミール語で放送されています。新聞も各言語のものがあります。すべてが多様。それがマレーシアなのです。話す言葉もしかり。
クアラルンプールの中心部にあるKLセントラル駅では、場所などを示す標識にこうした言語に加えて日本語も併記されているものが多い。これは観光やビジネスでマレーシアを訪れる日本人が多く、さらに親日的な国柄ということもあって、そうなっているのだと思います。
ようこそ、
英語ロングステイ学習へ
Tourism Malaysia
マレーシアは日本のロングステイ財団によると「ロングステイしたい国」として13年連続で1位になっているほど、長期滞在をする人が多い。日本人は国別長期滞在者数で常に上位に位置しています。中には、母親が子供をインターナショナル・スクールで学ばせるためにマレーシアに長期滞在し、父親は日本に残って仕事を続けるというケースもあります。
日本人はビザがなくてもマレーシアに90日滞在できますし、「マレーシア・マイ・セカンド・ホーム」ビザを取得すると、最長10年間滞在することができます。
マレーシアは気候が温暖で治安もよく、しかも生活コストが安く、国民も親日的。そうしたことが、マレーシアでのロングステイが人気を集める理由なのでしょう。ぜひ、マレーシアで生活して、日本で感じることが難しい多様な文化の魅力に触れてほしいと思っています。
ダト・ケネディ・ジャワンさん
(駐日マレーシア大使)
1961年生まれ。キリスト教徒。アメリカのバーバービル・ユニオン大卒業後、ボーリンググリーン・ウエスタン・ケンタッキー大大学院に進学し、文学修士号取得。88年にマレーシア教育省入省。89年に外務省へ異動。駐南アフリカ、駐スペイン大使などを経て、今年1月から現職。4月、上皇さまが天皇陛下時代に最後に信任状をお受け取りになった大使の一人。3男1女の父。趣味は、以前、二等書記官として日本に赴任していた時に始めたゴルフ。