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遠い駅 混み合うバス 不安な車の運転… 「都会の交通弱者」直面する難題

妊娠して痛感 移動を阻む“壁”

 仕事に行くにも、買い物に行くにも、車がないとどうにもならない。田舎のことのように思われるかもしれないが、実は都会にもそんなケースがある。
 交通網が発達しているイメージがある東京都内。目黒区に住む40歳の女性、鈴木寛子さん(仮名)は、ベビーカーを押しながら急な坂道を歩いていた。道のりは駅まで約20分だ。「目黒駅、祐天寺駅、武蔵小山駅。どこに行くにも、20分くらいはかかります」と話す。
 共働きで、2歳の長女がいる。2012年に移り住んだ時は、環境の良さに満足していた。目黒駅までバスもひんぱんに出ている。だが、妊娠してから「交通弱者になったことを痛感しました」。
 ふだんの通勤は、夫の運転する自家用車で駅まで送ってもらっている。帰りはバスに乗る。だが、いつも夫が車を運転できるとは限らない。ベビーカーで幼い長女を連れて行く時は困った。バスの段差がベビーカーを阻む。バスは常に混んでいるので、長女を連れて乗るのは大変だ。荷物が多いと、さらに苦しい。バスをあきらめた場合、急な坂道を歩くか、タクシーを呼ぶしかない。

実家の母・75歳 買い物に毎日運転

 長女の検診などで、目黒区役所に行かなければならないことも多い。だが、自宅から区役所に行くには、バスを2本乗り継がなければならない。「まわりには電動自転車を使う人も多いのですが、事故が怖くて……」
 もっと深刻なのは、神奈川県に住む両親だ。実家は最も近い駅まで歩いて30分もかかる。78歳の父親は脚が悪くて車の運転ができない。バスはあるにはあるが、本数が少ない。75歳の母親が買い物などに行くのに、ほぼ毎日、車を運転している。
「もう年なので、免許を返納して欲しいのですが、車がないと生活ができないでしょうし。タクシーがすぐにつかまるような場所でもありません」。もし、車が運転できなくなったらどうするか。今のところ、対策はないという。

65歳以上の
代表交通手段分担率(%)

<三大都市圏(平日)>

地方都市圏(平日)

出典:平成22年度 全国都市交通特性調査

免許返納したくても日常生活が…

 電車やバスなどの公共交通機関が全くない地域もある。公共交通空白地域と呼ばれている。駅やバス停からどの程度、離れた場所なのか。自治体ごとに違って、はっきりとした定義はないが、国土交通省の資料などでは、おおむね、駅からは半径500メートル~1キロ以上、バス停からは半径300メートル~1キロ以上離れていれば、公共交通空白地域と呼ばれている。これらの地域では、買い物などに行くのに、車が必要な人も多い。

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 一方で、75歳以上の高齢ドライバーの交通事故が問題になっている。死亡事故全体に占める75歳以上の割合は年々増え続ける傾向にあり、2016年には過去最多となった。その主な原因は、ハンドル操作やブレーキとアクセルの踏み間違いなどの操作ミスだった。死亡事故を起こした人の半数近くは、認知機能の低下が関係していることも分かった。

 2017年3月から道路交通法が改正され、免許更新時などに認知機能検査が強化された。その結果、2017年の運転免許証の自主返納は1998年の制度導入以降、最多の約42万人となり、そのうち75歳以上は約25万人で6割を占めた。その結果、75歳以上のドライバーの死亡事故は前年比41減の418件で、記録の残る1990年以降、最も減少数が多かった。免許の返納で事故が減ったと考えられる。

 ただ、日常生活を車に頼る高齢者は、返納したくてもできないのが現状だ。
  警察庁の調査でも、免許返納を考えたことのあるドライバーの約7割が、返納をためらう理由に「車がないと生活が不便」と答えている。

都市部に有効
「乗り合いオンデマンド」

加藤博和教授
名古屋大学大学院

 地域公共交通政策が専門の名古屋大学大学院の加藤博和教授は、「コミュニティバスとオンデマンド乗り合い交通の導入が解決策として考えられることが多い」と話す。
 コミュニティバスは、自治体や地域団体などが、自ら、または民間の交通事業者に委託して運行するバスだ。「ただし、自治体がバスを運行させれば、それでいいというわけではありません。地域によって異なっている事情に合わせたやり方が必要です。地域住民と自治体と交通事業者でじっくり話し合い、その地域に有効な運営・運行を見つけだす過程が重要です」。1995年に運行が始まった東京都武蔵野市の「ムーバス」の場合、住民と市、運行事業者が何十回も話し合いを重ね、4年をかけて地域に合った運行の形を見いだしたという。
 ただ、コミュニティバスでも乗降時刻や路線は固定されてしまう。バス路線から外れていたり、不便な乗換を余儀なくされたりするなどの公共交通空白「区間」や、公共交通機関はあっても様々な理由で利用が難しい人については、オンデマンド乗り合い交通が解決策となりうる。オンデマンド乗り合い交通とは、バスとタクシーの中間のような存在だ。利用者の都合によって、ルートが毎回、変わるバス。タクシーのように利用できるが、他人との乗り合いなので他の人の目的地を経て自分の目的地まで行く場合がある。その代わり、運賃は割安となる。「都市部の公共交通空白地域では低費用で高い利便性が得られる可能性があります」

「スマホで予約」
AI運行バスを実証実験

 オンデマンド乗り合い交通の一つとして全国各地で実証実験が行われてきたのが、AI運行バス。見えない壁や制約を超えるコミュニケーションを支援するNTTドコモの取り組み「For ONEs」の一つだ。
 利用者はスマートフォンのアプリや電話で予約してバスを呼び出す。AI(人工知能)が最適な車両を選び、最も効率のいいルートで目的地まで運んでくれる。運行ダイヤにもルートにもとらわれず、乗りたい時に行きたい場所まで行ける、未来の交通システムだ。
 今のところ、日本の高齢化と人口減少は避けられそうにない。今後、車を運転できなくなる人が増える一方、人口が減少した地域ではバス路線が廃止されたり、減便になったりすることが予想される。バスや電車が運行していても、運行ルートから外れていて、目的地まで行くのが困難な場合もある。お年寄りや妊娠した女性、幼児を連れた人などは、通勤ラッシュの電車やバスに乗るのは困難で、危険でもある。AI運行バスは、そんな様々な問題を解決するシステムとして、期待されている。

*AI運行バスはNTTドコモが提供する移動需要に応じた最適運行を行うオンデマンド乗合交通システムです。11月30日より前橋市にて実証実験が行われています。

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