YOMIURI BRAND STUDIO

Interview インタビュー

里親制度01親と離れて暮らす子どもを「施設養育から家庭へ」
里親を増やし、支援するために必要な体制とは

日本女子大学
人間社会学部社会福祉学科教授

林 浩康先生

虐待や貧困など様々な理由で実の親と暮らせない子どもは日本全国で約42,000人※。大半は児童養護施設や乳児院で育てられ、里親と暮らす子どもは過去10年間でほぼ倍増しているものの、欧米など海外と比べてまだ十分な割合とはいえません。国は、子どもは家庭に近い環境が望ましいとして「施設から家庭へ」との政策の方針を掲げています。里親と暮らす子どもを増やすためにはどうすればよいのでしょうか。児童福祉に詳しい日本女子大学の林浩康教授にお話を聞きました。※厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて『要保護児童数(全体)の推移』(令和4年度3月31日発行)」参照

―虐待や貧困など様々な理由で実の親と暮らせずに「社会的養護」を必要としている子どもたちは、日本では、里親ではなく児童養護施設などの施設養育が中心になっています。

 背景には、まず現在の日本では、「社会的養護」の受け皿となる里親登録をしている層が限定的になっていることがあげられます。日本では、不妊治療を経験し、子どもに恵まれなかった家庭が子どもを迎えるケースが大半を占めている一方で、里親も高齢化してきています。実際に子どもを委託できる里親が十分に確保できていない問題があります。また児童相談所のみならず子どもの委託や支援を行う多くの民間機関が存在する諸外国とは大きく異なります。
 また、児童相談所に里親の委託や支援などを行う専任職員の配置不足や人事異動といった自治体の体制に課題があります。自治体の里親にかかわる業務体制が十分に構築できていないために施設養育となるケースが多くみられます。また、実際の現場では、定員に余裕がある施設を受け皿として優先することがインセンティブとして働いてしまうことも考えられます。
 このほか、日本では実親は、里親委託より施設措置を希望する場合が多く、その意向を尊重するためということも言われてきました。子どもの措置に司法が関与する国では、親の意向ではなく、子どもの利益を中心に司法が判断し、実親の意向に関係なく、里親委託や養子縁組が積極的に活用されています。

―里親として子どもを育てるうえでの課題もあります。

 現在の日本では、里親家庭が子どもを迎え入れた場合、里親、とりわけ「里母」が子育てのほとんどを担うケースが目立ちます。背景には、里親制度が「専業主婦が家事や育児を行う」という高度経済成長期の家庭モデルに合わせてつくられている点があると考えています。
 ただ、日本の場合、不妊治療を経て里親登録する人が多く、里親になって初めて子育てを経験する人が少なくありません。このため、「里母」は気軽に子育てを手伝ってもらったり支え合ったりできるような人が近隣地域にいないまま、初めての子育てを行うことになり、子どもの養育に負担を感じてしまう人も多くいます。また、里親が病気などで一時的に子どもの養育が困難な状況になった時に一時保育やレスパイトケアなど公的支援も現状では十分とはいえません。

―社会的養護を必要とする子どもたちにとってなぜ里親が必要なのでしょうか?

 里親養育と施設養護との違いは、養育者の家庭に子どもを迎え入れる点にあります。里親家庭で子どもは、生活基盤を1人以上の人と共有し、当たり前の家族団らんや生活体験をします。また家庭における一貫した養育者との関係において、どんなに悪いことをしても大丈夫という安心感を持てることが子どもには、とても大きな意味を持ちます。「里親は自分を叱ったとしても、自分を捨てるわけではない」などといった経験を重ねることで自尊心を育み、生きる土台をつくります。

―社会的養護を考えるうえで、子どもにとって必要な視点とは?

 子どもを中心にすえて、子どもがいろいろな養育者に大切に育てられていることを実感できるような体制づくりが重要です。かつて農村部で、農繁期にはあぜ道に赤ちゃんを置いて、みんなであやしながら子育てをしていたように、日本には社会全体で子育てをするという文化がありました。「子どもが泣いていれば、誰かがあやせばいい」という考えです。現在、共働き家庭が増えており、高度経済成長期の家庭モデルを前提とした現行制度には、さまざまなひずみが出てきています。
 また、施設で落ち着いて暮らしていた子どもの中には、里親家庭で過ごすことで、虐待など成育環境での問題が顕在化することがあります。里親をはじめとする周囲がこの問題と向き合うことが、子どもが生きる土台をつくるうえで大切になりますが、里親の負担がとても大きいのも事実です。里親が児童精神科医や心理専門職など専門家にも気軽に相談できるようにするなどの支援も必要です。

―日本で里親を増やすためにどんなことができるでしょうか?

 日本では、不妊治療経験のある夫婦が乳幼児や新生児を里親制度や特別養子縁組制度を使って迎え入れるケースが多くを占めますが、それ以外の受け皿が不足しています。地域や子どもの状況に合わせてターゲットを絞った普及啓発が必要だと思います。
 社会的養護が必要な子どもの年齢や成育歴は多様でニーズも異なります。例えば、年齢が高ければ下宿のような形態も考えられるかもしれません。その受け皿となる里親像をどのように想定するのか、あるいは子どもの状況や子どもの地域的偏在等を踏まえ、ターゲットを明確にした里親リクルートも必要かと思います。

今後、里親の子育て支援を充実させるために必要な視点を教えてください。

 現在、あらゆる子育て支援事業については、財政や人材確保など自治体の体制による格差の影響を受けているといえますが、里親制度についてもその影響が懸念されます。
 また、現在の都道府県の里親制度のもとでは、里親が子どもの100%の生活基盤になりますが、里親家庭をはじめ、施設や実親家庭などと分担することも1つの選択肢になると思います。週末だけ施設に行くなど、子どもに逃げ場をつくるのです。施設で暮らす子どもには、週末だけ里親のもとで過ごす「週末里親」がありますが、その里親家庭版のような形になります。
 子どもにとって、コアになるメーンの生活基盤がある方がいいという考え方もありますが、例えば、保育士をはじめ、別居しているおじいさんやおばあさんとも愛着は形成されます。子どもにとっては、里親子以外の関係性の中で、大切にされる経験も必要です。里親、実親、施設などが協力して「子どもを一緒に育てる」という体制づくりがなければ、里親に対する子育て支援が充実しているとはいえません。「里親か施設か」「里親か実親か」といった二者択一ではありません。状況に応じて柔軟に施設や実親などの力を借りて子どもにとって最も良い形をつくるのです。

―海外の制度と比べると、どんな課題が見えてくるのでしょうか?

 里親委託率が相対的に高い国々では、深刻な被害体験を抱えた子どもを「一時」的に手厚く支援することを目的に、入所施設が活用される傾向にあります。その「一時」はどんなに長く見積もっても2年以内です。子どもの措置に司法(裁判所)が関与し、子どもの施設入所期間が日本に比べ短期となっています。また里親も一時的な養育の場であり、基本的に短期に家庭復帰できない場合、司法の関与により養子縁組が積極的に検討されます。
 一方、日本では施設や里親への措置に司法が関与することはほとんどなく、特別養子縁組に関しては、その対象の多くは乳児に限定されています。したがって、里親家庭や施設で長期間生活している子どもたちが多く存在しています。経済的な理由もありますが、里親家庭で10年以上の長期に養育されている子どもは、特別養子縁組がふさわしいのかもしれません。日本は里親と特別養子縁組の区別について、実態としてはついていないように見える部分があります。里親とは法的には親子関係はないという点についても、子どもを中心に考えることが求められます。
 このほか、里親制度では、子どものケアの難易度に応じて、措置費が違う国もあります。日本でも子どものケア難易度を判定できる仕組みづくりも求められています。

  • はじめての「里親制度」知るとできることがある